小説そのものの意思が「形」を生み出す

著作者:大島真寿美
出版社:文藝春秋社
デザイン:大久保明子
発行年:2019年

渦 妹背山婦女庭訓 魂結び

選者:大島真寿美(作家)

「渦」は、私が信頼する文藝春秋(この本の版元)のデザイナー、大久保明子さんに装幀をお願 いしました。(「あなたの本当の人生は」や、「やがて目覚めない朝が来る」の装幀も大久保さんです)
私が常々、天才、といって憚らない大久保さんなので、もうね、任せっきりで大丈夫!(なんですけどね、そのわりに、制作過程をいちいち見せてもらって、そのたびに、ただただ感心しておりました)

今、思えば、「渦」という小説は、小説そのものが、〝わたしはこういうふうな姿で世に出たいの〟と、己の意思をはっきりさせていたように思います。
たとえば、表紙の絵を描いてくださったのは原裕菜さんなのですが、まず大久保さんがイラストレーター四名の候補をあげ、その中で、私は原さんにお願いしたいと伝えました。すると編集者も同じ意見。
なんの齟齬もなく、話し合う必要もなく、一瞬にして、するすると決定。
そうして、〈お三輪ちゃんと渦〉を描いていただくことになったのですが。

さて。
いよいよ原さんにお願いしてみると………。
なんと、原さんは、お三輪ちゃんの故郷、奈良の大神神社のすぐそばにお住まいだったのです!
えええええ!!!!!
偶然にしては凄すぎませんか?
〝この人に描いてもらってちょうだい〟と、小説が(「渦」が)(お三輪ちゃんが)、我々に指示を飛ばしてきたかのよう。
お三輪ちゃんの絵は、だから、三輪山のお三輪ちゃんに見守られながら、いやいやいや、三輪山の神様に抱かれながら、描かれていったものなのです。

そう思って、表紙のお三輪ちゃんをようくご覧ください。
ね!
お三輪ちゃんが満足しているのが伝わってくるでしょう?

天の部分がアンカットになっていたり、かっちりした作りではなく、全体に柔らかい感じになっているのは、浄瑠璃の床本を意識したから、とのことです。表紙の折り込み(特殊)もそうですが、和綴じの柔らかさを思い出させる手触りになっています。
そうして、モダンな渦が、過去と現在を繋いでいっているのです。
使われている紙の種類(質感)もそれぞれ和のテイストで、しかも変化に富んでいて楽しいです。あちこち愛でて味わいながら読んでいただきたい本です。 

※内容・肩書きは、執筆当時

前へ

一覧に戻る

次へ