みんなやりたい放題! 夢の本づくり

著作者:大島真寿美
出版社:集英社
デザイン:ヒラマツミヨコ
発行年:1992年

宙の家(ソラノイエ)

選者:大島真寿美(作家)

 私の初めての単行本です。
「装丁、どうする?」と当時の担当編集者にきかれ、「友達(「鳩よ!」にイラストを描いていた)にやってもらいます」とこたえた私。「きみは、なんか、そーゆーこと、いいそうな気がしてたんだよなー」と呆れつつも、許可してくれた編集者。しかしその後、「ところでその友達、装丁、やったことあるの?」「ないです」「あ、そー(深いため息)」。
 さあ、ここからがタイヘン! 私とその友達・ヒラマツミヨコが、集英社にいき、装丁のベンキョーをするところから始まったのです。嘘みたいな本当の話。
 表紙カバーにトレーシングペーパーを使いたいというヒラマツミヨコ。当時、トレーシングペーパーの質はまだあまりよくなくて、擦れてすぐ汚れるので使えないんだ、という編集者。でも使いたい、というヒラマツミヨコ。じゃあ、もういいや、使え、といってしまう編集者。すべてはこんな調子で、素人が素人のまんま、作ってしまった本なのでした。花ぎれ、スピン、紙、などなど。見本をみせてもらいながら、一つ一つ、全体の予算のこととかも教えてもらいつつ、イメージに近いものをヒラマツミヨコが選んでいきました。私もちょっと口出ししたりして。それはそれは楽しかった!
 今思うと、夢のよう。
 私は、デビュー作を友達と好きに作ってしまったんです。
 「表紙タイトルにはルビ入れないものなんだ!」と編集者。「入れてください」と私。「じゃあもう、入れるか」と編集者。(さすがに背表紙のルビはだめでしたが)
 一度くらいダメだといわれても全然引き下がらない私たち。
 編集者は編集者で、帯の文言に「文學界新人賞でデビュー」という、版元が違うくせに大胆にも書いてしまって、まあ、ある意味、全員、やりたい放題。
 こんなふうに、私たちは、ただひたすら、楽しんで作っていったのでした。
 この素人炸裂ぶりを愛でていただけると嬉しいです。
 経年劣化により、トレーシングペーパーは、確かに擦れて汚くなりました。あらためて、歳月を噛み締めています。
 でもさ、こんな一冊があってもいいよね。
 こんな一冊がデビュー作、って人がいたってよくない?

※内容・肩書きは、執筆当時

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